寿永三年、睦月。
宇治川の雪原に、平家の怨霊偵察隊が潜んでいた。
源氏方の動きを探るためだ。
「ギギ…ギ…(源氏は京に引き上げるようだな)」
「ギ…(早い撤収であります。この付近に人影は見えません)」
「ギ…!(いや、いました! あれは…何者でしょうか)」
先ほどまで戦場だった場所に、
長い髪の娘とうら若い尼僧、異国風の装束を纏った幼い子供がいる。
どう考えても不自然だ。
「ギギ…ギ…(やつら、ただ者ではないな)」
「ギ…(源氏の新兵器かもしれません)」
「ギ…!(だとしたら、放ってはおけません)」
怨霊の一体が行動を起こした。
「ギギ…ギ…(待て! 我々の任務は偵察だ!)」
しかしリーダーの制止を振り切って、
血気盛んな怨霊は、髪の長い娘に襲いかかった。
「ギ…!(へっ、手柄を立てるのは今しかないんだ)」
が、幼い子供が小さな剣で怨霊の攻撃を受け止めた。
「ギ…!(あれ、何? この清らかな感じ…。あんた、ただの子供じゃないの?)」
怨霊に一瞬の隙が生じる。
その時娘は、雪原に突き刺さった剣を引き抜いていた。
そして白い光が広がり―――
「ギギ…ギ…(こんな所で新兵を消されるとは。
だが確かに見せてもらったぞ。白龍の神子の封印の技とやらを。
この場は撤退だ。
残っている怨霊兵にこのことを伝えなければならない)」
「ギ…(じーん)」
「ギギ…ギ…(認めたくないも……以下略)」
第1話 完
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