西暦1000年。
京は鬼の怨霊攻撃により滅亡の危機に瀕していた。
怨霊を封じる力を持つ神子はアクラムに捕らえられ、
迫力彗星に閉じ込められている。
さらに鬼の首領アクラムは、神子もろとも迫力彗星を京に墜とそうとしていた。
人々の期待を背に、神子と京を救うべく宇宙戦艦ヤハトで飛び立った八葉は、
バッドエンドの危機を乗り越え、迫力彗星の内部へと突入した。
………と思ったら
まさかの彗星違い。
そこは迫力彗星ではなく、赤い彗星だったのだ。
建造物の内部でワープするという暴挙をかまし、
何とか脱出した八葉は、そこで思いも寄らぬ事実に直面することになった。
「何っ! それは本当ですか、泰明殿!」
「悪い冗談はよせよ」
「冗談ではない。事実だ。
迫力彗星は我々の後方にいて、どんどん遠ざかっている」
「ってことは、ええと…どういうことだよ!?
詩紋、分かりやすく説明してくれ」
「え?……ええと、ボクにもよく分からないけど、
いつの間にか迫力彗星とすれ違っていたとしか……」
「ばっどえんどの間か、私達が赤い彗星内にいた時に
すれ違ったのかもしれません。
その間は、眼前の出来事への対処で手一杯でしたから」
「考えられるのはその辺りだろうね。
だが今は、いつすれ違ったか問うよりも
迫力彗星を追うことが先だと思うのだが」
「そ…そうですね。急がなければ」
「迫力彗星が京に墜ちる」
その頃、迫力彗星では、アクラムがせっせと脱出の準備をしていた。
「ふはははは、見事にダマされたな八葉。
この迫力彗星は私自らが操縦していたのだ。
龍神の神子など、最初から乗ってはいない。
八葉の涙ぐましい奮闘ぶりは、なかなかの見物であった」
その時、
ブゥゥ……ンと小さな音を立てて、
メインスクリーンのスイッチが入った。
「今頃何だ、イクティダール。
定時連絡はまだ先だろう」
アクラムが不機嫌な仮面顔をスクリーンに向けると、
そこには同じく不機嫌な仮面男がいた。
アクラムのものより簡素な仮面だが、
ただ者ではない感を猛烈に漂わせている。
「君が迫力彗星とやらの艦長か。
私の赤い彗星は、ヤハトなる艦により甚大な被害を被った。
彗星内部でワープをされたためだが、
調査によって、彼らは赤い彗星を迫力彗星と誤認したと判明した」
「くだらぬ話だ。
それが私と何の関係がある」
「鈍いな。損害賠償を求めているのだよ」
「お前こそ愚鈍の極み。
ヤハトは私の敵だ。
敵のしでかしたことの後始末をするお人好しがどこにいる」
「ヤハトはその後行方知れずだ。
ならばということで彼らの知り合いを探したのだ。
敵であろうが、同じ作品に出演していたのなら同じ穴の狢。
覚悟して100億万円ほど払ってもらおうか。
アルテイシアに隠し財産の金塊を分けてしまったので、
少々手元不如意なのだ」
ブチッ
アクラムはスクリーンを強制終了した。
不当な請求に貸す耳などない。
京に戻ってしまえば、他作品から追ってはこられないのだから。
――とんだ邪魔が入ってしまった。
アクラムはスクリーンに背を向けると、気持ちを切り替えた。
くだらぬ言いがかりにかまけているヒマはない。
勝利は目前なのだ。
アクラムの顔に、再び不敵な笑みが浮かぶ。
「龍神の神子は我が手中にある。
せっかく手に入れた神子を迫力彗星に載せて墜とすなどあり得ぬこと。
囚われの映像と我が言葉だけで信じてしまうとは、愚かというより哀れよ。
そもそも4月1日はウソぴょんの日なのだ」
その時、またもや
ブゥゥ……ンと小さな音を立てて、
メインスクリーンのスイッチが入った。
「しつこいぞ、赤い彗星!」
アクラムが怒りの仮面顔を向けると、
そこには同じく怒っているらしい仮面顔があった。
アクラムのものより派手で、花や長い耳までついている。
「聞こえる聞こえる、悪を企む声が。
神子の嘆きが。
だってウサギの耳は長いんだもん。
愛と正義の使者、【事情により匿名】仮面参上」(←テンション最低)
ブチッ
アクラムはスクリーンを強制終了した。
やる気のなさそうな仮面うさみみ男に貸す耳などない。
――最終回が近くなると邪魔が多いな。
とにかく、迫力彗星を早く京の上空まで移動させなければ。
「迫力彗星の威容に人間共がひれ伏すならそれもよし。
あくまでも逆らうなら、予告通りに墜とすまで」
ブゥゥ……ン
「借金を踏み倒した上に、私のコロニー落としをパクる気か」
ブチッ
コロニー落としではない。彗星爆弾だ。
パクリではない。礼賛と尊敬だ。
ブゥゥ……ン
「うるさいぞ!
これ以上不当な請求をするなら!」
「ほう? 迫力彗星の返還請求が不当だと?」
「あ……【事情により匿名】大帝」
「レンタル期限が過ぎた。
小型迫力彗星を速やかに返してもらおうか。
まさか使用料金+延滞料を踏み倒す気ではないだろうな」
「え、使用期限切れ……?」
しまった……日数計算を誤った。
とにかくこの場は――
ブチッ
ブゥゥ……ン
「う……さすが【事情により匿名】大帝。
接続が早い」
しかしスクリーンに映ったのは、こちらに向かってくる艦だった。
一目見て、かなり損傷を受けているのが分かる。
「ヤハトか!?
いや、よく似ているが、違うようだ。
しかし我が行く手を塞ぐなら、ヤハトのそっくりさんでも容赦はせぬ」
その時、艦から切れ切れに声が流れてきた。
「ゆき…… ほしになって…… これがふたりのけっこ……」
ヤハト似の艦は、ぐんぐんとこちらに迫ってくる。
宇宙空間を通しても分かる。
あの艦は、迫力彗星に突っ込む気満々だ。
わけわからんがケッコンとツッコミが両立している。
ブゥゥ……ン
「彗星返せ。延滞料払え」
前門のツッコミ艦! 後門の大帝!
どうする、アクラム!?
続く
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2017.04.01