地白虎のせんたく

景時×望美 迷宮ED後



「景時さん、どうしましょう!?」

「ふみっ! みぃぃぃ〜〜」
どら猫は塀の上に飛び乗ると、こちらを向いて勝ち誇ったように鳴いた。

完全に、なめられている。

「何だかオレ、怒りが湧いてきたよ。望美ちゃん、追いかけよう!
あの猫、前にも池の鯉を狙ったやつなんだよ」
「捕まえて、きっちり叱ってやらないといけませんね!」

「みみみぃ〜〜」
二人の会話をよそに、猫は隣家の屋根にジャンプした。

「あ…! 景時さん、急がないと見失っちゃいます」

しかし景時は焦る望美に余裕の笑顔を向けると、
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」と言って、棚から小さな箱を取り出した。

「何が入ってるんですか? え? 糸のついた割り箸と…リボン?」
「陰陽術で作った、式神に装着するからくりだよ。
式神にも協力してもらおうと思ってね。
まずこっちは、鯉に使うんだ」

景時は池の前に立ち、鯉に向かって割り箸をかざして呪を唱えた。
すると、鯉が池の中からぴょーーーーーーん!と飛び出し、
割り箸の糸につながれた。

「あ、姿が変わった!!
ひらひらして、何だか鯉のぼりみたい……」
「うん、そう見えるでしょ。オレも、そこから思いついたんだよ〜♪
でも鯉のぼりと違うのは、追跡する相手の方をいつも向いてるってことなんだ」

「すごいです、景時さん! これなら猫を見失いませんね。
あ…でも、猫って素早いし、よそのお家の縁の下に隠れてしまったら、
場所は分かっても捕まえられません」

「そうだよね〜。でも心配ご無用! オレにどーんと任せてよ。
さあ、サンショウウオ、君の出番だ!」

「キ…キュ…?」
ぺたぺたと池から這い出してきた小さなサンショウウオの首に、
景時は黄色のリボンを巻いた。

「さあ、これでよし! 望美ちゃん、追跡開始だよ」
「でも猫とサンショウウオじゃ、勝負になりま…」

その時、
ヒュッッッ………! ピョン! ピョン!
サンショウウオは一瞬で塀に飛び乗り、隣家の屋根にジャンプした。

「速い……」
「どう、驚いた? このりぼんはね、加速装置付のまふらーなんだ。
首に巻くと、動きが速くなって、あんな風に高く飛べるようにもなるんだよ」

こうして、どら猫の追跡が始まった。

2体の式神につけたからくりは互いに連動していて、
鯉のぼりの向きが変わると、前を走っていくサンショウウオも素早く向きを変える。
見事な連係プレーだ。

路地を走り、空き地を駆け抜け、障害物も軽やかに飛び越えて、
サンショウウオは猫を追っていく。
猫が民家の庭の植え込みに潜んでも、物陰に隠れても、すぐに見つけ出す。

「ひぃ…はぁ……式神もオレ達も…ずいぶん…走ったね」
「がんばりますね、あのどら猫」
「望美ちゃん……大丈夫…? ひぃぃぃ〜〜」
「これくらいへっちゃらです」
「オ…オレも……何てこと…ないよ……ない…けど……」

景時は足を止めて、周囲を見回した。
「ここは……どこなのかな?」

気がつくと、長い坂の途中に二人はいた。
坂道の片側には生け垣が続き、反対側には木が生い茂っている。

静かで、人の気配はない。
鯉は、真っ直ぐに坂の上を指している。
前方を行くサンショウウオの動きが、心なしか鈍い。

足を緩めて歩く内に舗装道路が途切れて、二人は坂の頂上に出た。
一気に視界が開ける。

青空と、眼下には緑に覆われた小さな谷戸。
木々の間に鈍色の甍が光っている。

「うわあ、いつの間にか、こんなに高いところまで来ていたんだね」
「あ、サンショウウオくんが!!」

「キュゥ…」
砂利道の上で、サンショウウオがノビている。

「わわわっ、ごめん!
速い動きはもう限界だったんだね」
景時はサンショウウオを抱え上げた。

「がんばって無理してしまったの?」
「キュ…」
「みぎゃ」
「よくやったね」
「ありがとう」
「キキュ」
「みゃぁみゃ」

「え…?」
「あ…!」
「キッ…!」
「み…っ;;;」

あのどら猫が、いつの間にか何食わぬ顔で道ばたにいる。

「キュゥゥッッッ!」
サンショウウオが、最後の力を振り絞って猫に飛びついた。

「ふぎゃっ!」
「キッキッキュ!! ……ぐふっ」
「さあ、捕まえたよ!」
「観念しなさい!!」



間もなく、猫はすごすごと去っていった。

最後にしおらしく「みぃ……」と鳴いたのは、
景時に叱られたからか、望美にすごまれたからか。
それともサンショウウオに敗北感を抱いたからなのだろうか。

そして、さわやかな風の吹く高台に、望美と景時と式神が残った。

「あー、オレ達、すっかり迷ちゃったね」
「ええ。でも鎌倉って、広いんですね。
ずっと住んでるけど、こんな場所があるなんて知りませんでした」
「でも、たまにはこんな風に迷子になるのもいいと思わない? 望美ちゃん」
「私もです、景時さん!」

「じゃあ……」
景時はそう言って、望美に手を差し出した。
「このまま、歩こうよ。
帰り道を探すんじゃなくて、足の向くままに、ね?」
望美はこくんと頷いて、頬を赤らめながら景時の手に自分の手を重ねる。


手をつないで、二人は歩き出した。
雑草の生えた高台の道は、新しい住宅地に続いている。
遠くから、子供のはしゃぐ声が聞こえてきた。

陽が高い。

「もうすぐ夏…だね」
空を仰いで景時が言った。

「はい」
「夏になったらさ、海で泳ごうよ」
「はい」
「浜辺でも遊ぼうね」
「はい」
「ちょっと遠くに行くのも、いいかな」
「はい」
「花火っていうのも、見てみたいんだ」

二人の指がぎゅっと絡み合う。

「はい、由比ヶ浜で一緒に見ましょう」

「ねえ、望美ちゃん……オレ…」
「はい?」
「……オレ……」

割り箸にくっついた鯉から、
景時の肩に乗ったサンショウウオに忠告が届く。

『キゼツシタママデイヨウネ』と。


静かな日曜日、幸せな迷子が二人、鎌倉の空の下にいる。


― 迷子エンド ―





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景時さんなら、マフラーはやっぱり黄色ですね〜♪


2012.08.11 筆