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1月から12月まで、各月1編ずつのSSと詩のオムニバスです。 現代エンド後背景で、無印も「迷宮」も有り。 リズと望美の距離感も、甘いものから淡いものまで様々取りそろえました。 収録タイトル 1.睦月:邂逅 2.如月:チョコの食べ方 3.弥生:十四日 4.卯月:桜 花 5.皐月:走り梅雨 6.水無月:てるてる坊主 7.文月:異風(サイト掲載の「妄想の日」・「過ぎゆく日々に…」収録の「煩悩の日」と 同じ出だし→全く違う展開の話) 8.葉月:花火 9.長月:曼珠沙華 10.神無月:花嫁 11.霜月:異邦人 12.師走:聖なる夜に 如 月 ―― チョコの食べ方 ―― リズヴァーンは箱を開け、チョコレートを一つ取り出した。 そして… 「神子、口を開けなさい」 「へ?」 リズヴァーンは手を伸ばし、ぽん…と望美の口にチョコを入れる。 とろりした甘みとふくよかな香りが広がった。 「おいしい♪」 「神子の選択が正しかった証だ。不安は無くなったか?」 「はい! ありがとうございます!」 ……って、何かが違う……。 望美は、自分でも箱からチョコレートを一つ出した。 そして自分に向けられた穏やかな笑顔を見上げて言う。 少し恥ずかしいけれど、言ってみたかった言葉だ。 「先生、はい、あーんして」 青い瞳が凝視する。 眼を合わせたまま、チョコをリズヴァーンの口に運ぶ。 リズヴァーンの唇に指が触れ、チョコを絡め取る舌先が、かすかに望美の指先をくすぐった。 ・ ・ ・ 皐 月 ―― 走り梅雨 ―― 襲い来る刃には、己が剣を取り、立ち向かおう。 激しい雨に打たれるならば、拳を握りしめ、歯を食いしばって耐えもしよう。 凍てつく寒さの中でも、かじかむ手を炎にかざし、やがて来る春を待とう。 だが…卯の花を腐す雨は、しのびやかに世界を包み いつしかしんしんと心を冷やす。 孤独の闇に迷い、胸を噛む淋しさに、なすすべもなく震えていた幼い心。 それは遠い昔のこと。それでもなお、しとしとと降り続く雨音に、胸が…痛い。 ・ ・ ・ 水無月 ―― てるてる坊主 ―― 「明日天気にな〜れ」 軒端に吊した、てるてる坊主。 空は今にも泣き出しそう。 窓辺に頬づえをついて、もう一度 「明日天気にな〜れ」 小さな声で言ってみる。 「神子、それは、まじないの人形なのだな」 すぐ後ろで、先生の声。 大きくてあたたかな手が、肩を抱く。 「てるてる坊主って言うんですよ。いいお天気になるように、こうして軒先に下げるんです」 「神子は、明日が雨では嫌なのか?」 「先生の意地悪。明日は一緒に出かけようって、約束したのに」 「神子と共にいられるなら、空模様など気にならぬ」 「でも…やっぱり私」 「神子が願うなら…」 そう言って先生が見せてくれたのは… 「あ、てるてる坊主!」 「神子のものを真似て、私も作ってみた」 軒先に、てるてる坊主が二つ並んだ。 「きっと明日はお天気ですね」 「神子の願いは必ずや天に届くだろう」 「ふふっ、てるてる坊主たち、仲よく並んでますね」 「一つだけの時より、喜ばしげに見えるな」 風が吹いて、てるてる坊主はゆらゆら揺れる。 揺れるたびに、おでことおでこがこつん、とくっつく。 優しい腕の中、顔を見合わせて、私たちも おでことおでこを、こつんとつけた。 ・ ・ ・ 神無月 ―― 花 嫁 ―― 「ううう…私の娘は絶対にやらんぞ!」 「あなたったら、花嫁さんを見る度にそればっかり」 「悪いか! 可愛い娘を手放したがる父親なんて、いるものか!」 「仕方ないでしょう? 女は好きな人と結婚するのが一番の幸せなんですから」 「す…す…好きな人だと! 許さん! 断じて許さんぞおおお!!」 「ちょっと、あなた、もう少し声を…」 「うう…花嫁の父の気持ちが、お前に分かるか」 「私に男になれとおっしゃるんですか」 「誰がいつそんなことを言った。小さい頃から大切に育ててきた可愛い娘を、 どこの馬の骨とも分からん男に取られてしまう、父親の気持ちを察してくれと言ってるんだ。 一発殴ったくらいじゃ気がすまん」 リズヴァーンと望美は硬直して、夫婦の会話を聞いている。 ・ ・ ・ |