聖夜の鈴の音

泰明×あかね 京ED後
聖夜の邂逅の 翌年背景です



















雪夜の空を走るソリの上で、真っ赤な装束の小太りな老人が、ほっと息をついた。
「ふう……。危ない所じゃった。
また空から落ちるかと思うたわい。
ハニーハニーチャッピーや、急発進はするでないぞ」

ソリを引く小さなトナカイが、すまなそうに首を上下に振り、
再び飛び跳ねるように走り出す。

「ほほう。上機嫌じゃのう。
あの小さな可愛いお嬢ちゃんにまた会えたのが、とても嬉しいのじゃな。
お嬢ちゃんも、大喜びじゃったのう。
プレゼントのぬいぐるみは、お前をモデルにして作った特別製じゃ。
角を押すと、くねくねするんじゃったな。
あ、違うか。鼻がピンクに光るんじゃった」

トナカイはぴょんっと飛び上がり、はっとして慌てて後ろの主を見た。

しっかり手綱を握りしめていた老人は、白い髭を震わせて朗らかに笑う。
「途中で気づいたか。なかなかの成長ぶりじゃ」

トナカイは誇らしげに首を上げた。

「さて、次はやさしいお嬢ちゃんと仏頂面の坊やの家じゃな」

サンタクロースを乗せたソリは、
シャンシャンと鈴の音を鳴らしながら、もう一つの目的地へと向かう。
目印は、庭にある桜の木だ。





サンタクロースがその家に到着すると、
桜の木には、くつ下が吊されていた。
そして、木の傍らには――

「来たか、三太苦労。待っていた」
降りしきる雪の中、泰明がにこりともせずサンタクロースを出迎えた。

「おお、坊やか!
メリークリスマス!!」
「めりい…くりすます…?
くりすますという行事の挨拶か?」
「そうじゃよ。坊やは飲み込みが早いのう。
はて、お嬢ちゃんの姿が見えぬが……眠っておるのか」

泰明は頷いた。
「そうだ。神子は、よい子が寝ている間に三太さんが来るのだと言って
早々と眠ってしまった。
だが、私はお前に二つ、用がある。
まずはこれだ」

「さて、何かの……?」
泰明が差し出した小さなくつ下を手に取り、
サンタクロースは、白い眉を持ち上げた。
「おおっ! 土製の鈴が入っておる。
ころころと愛らしい音じゃのう」

「神子から三太へのぷれぜんとだ。
愛らしいのは当然だ」
「して、もう一つの用とはいったい何じゃ?」

サンタクロースが問うと、
泰明は掌を上に向けて呪を唱えた。
揺らめく炎が、ぽっと中空に浮かび、辺りをほの明るく照らした。

「三太苦労、お前の装束をよく見せてほしい」





京の夜空を、ころころと鈴を鳴らしてソリが行く。

「あたたかくてよい音色じゃのう。
この世界には、ベルよりこちらの音の方が似合っているようじゃ」

その通り、と言うように、トナカイは頭を上下に振った。

「やさしい子達に会えて、わしらは幸せじゃのう。
人が人を思う心は、暖炉よりも暖かいものじゃ」

その時突然、ソリが方向を変えた。

「ん………? どうした、ハニーハニーチャッピーや。
帰り道はこちらではないぞ」

しかし、小さなトナカイは何度が短く啼いて、
自信に満ちた足取りで、夜空を駆けていく。

「何と……!
有蹄類SNSのオン友から、プレゼントを届けるように依頼されたじゃと?」

ぶんぶんと、トナカイは頭を振って肯定する。

サンタクロースは、下界をしみじみと見下ろした。
「この世界は、あちこちの世界と縁を繋いでおるのじゃな。
では、お前の友達の願いを叶えに行くとするか」

雪の降る朱雀大路の上空に、ころころと鈴の音が響き、
やがて夜の彼方へ消えていった。





翌朝、内裏でお目覚めになったやんごとなき御方は、
枕元に置かれた牛のぬいぐるみに大層喜ばれ、
早速、出家された弟君と、懐刀と呼ばれる左近衛府少将をお召しになり、
牛談義に花を咲かせたという。






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「はじめてのおさいほう」 へと続くクリスマス話でした。

「聖夜の邂逅」に頂いた感想の中に、
藤姫にトナカイのぬいぐるみを……というものがあって、
ぜひ実現したいと思っていました。
何とか形にできてとても嬉しく、
コメントを送って下さった方に感謝です!


13.12.25 筆