(泰明×あかね・京エンド後)
泰明誕生祝い
「ウサギ!」
月魚釣りから戻った月の桂男()は、
地上に遠めがねを向けてウサギのピンチを知った。
「釣りを早めに切り上げてきてよかった。
心配が現実になってしまったか。
こうなったら仕方ない。
非情手段………まちが……非常手段だ!!
待っていろ、ウサギ!!」
*****************************************
ううっ……ジブンがこんなに小さかったなんて。
ウサギの口は細かい波線になっている。
餅つきはウサギにとって力の誇示だ。
しかし、たくましい腕でどれほど激しく杵を動かしても、
この男は歯牙にもかけない。
下界にこの男のような凶悪巨人が生息しているとは知らなかった。
もう餅をつく意味とか、どうでもいい。
懐かしいあの餅つき場に帰りたい。
心ゆくまで餅がつきたい。
普通の月のウサギに戻りたい。
しかし凶悪巨人とは一触即発。
ど……どうしよう…………。
進退窮まったウサギはぶるぶると震え、
輪郭線までが波線になった。
その時!!!
突然、満月のような黄色い光が急降下してきた。
それは凶悪男の眼の前まで来ると、光を弱めてほわほわと揺れる。
[あ……!]
思いがけない出来事にウサギは震えた。
涙がこみ上げてくる。
男の怖ろしい仏頂面の前に現れたのは、
月面餅つきセンター管理官、月の桂男 )だったのだ。
[か……桂さん…]
「桂じゃない。月の桂男( だ。
私が来たからにはもう大丈夫だぞ! 任せておけ!」
*****************************************
小さな光の中から現れたさらに小さな男が、
泰明に向かってぴょこんと頭を下げた。
「この度はどうも、私の部下がとんだ不始末をいたしまして!!!!」
「私に謝っているのか、小粒男?」
「小粒男じゃない。
月面餅つきセンター管理官、月の桂男(微難)……あ、間違いが振り出しに戻った。
月の桂男(男)だ。……あ、これじゃ()をつける意味なくね?
と、とにかくこの場は何とか穏便に収めてはもらえないか、仏頂面殿。
お詫びの印として、獲れたてぴちぴちの新鮮な月魚もお納め願いたい」
「面ではない。安倍泰明だ。
勝手に現れて穏便とは意味が分からぬ。月魚も知らぬ。
だがさっさと己の場所へ帰るなら問題ない」
「おおお、ではウサギはこのまま月に帰ってよいと!?
感謝しますぞ、面ではない仏頂面の安倍泰明殿」
[さ、さすがだ! 桂さん!!]
「桂じゃ(以下略)。だから私に任せておけと言っただろう?」
その時すでに泰明は家の門をくぐっていた。
小型子ウサギと小粒男は無害と分かった。
ならば、これ以上時間を無駄にするわけにはいかない。
泰明の背後で二つの光が夜空に消えていき、
やがて月にかかっていた薄雲が晴れた。
*****************************************
「おかえりなさい、泰明さん」
あかねは庭で待っていてくれた。
「今帰った、神子。
遅くなってすまなかった」
「泰明さん、さっき、不思議な光が空に昇っていくのを見たんです。
気がつきませんでしたか?」
「月のウサギと桂男が、月に帰っていったのだろう」
あかねは一瞬きょとんとして泰明と月を交互に見比べたが、
くすっと笑うと、泰明の腕に飛び込んできた。
「神子…!?」
「泰明さん、お誕生日おめでとう!
今日は、すてきな初ジョークの記念日にもなりましたね!」
じょーくとは何だろう?
だが………
腕の中のあかねを抱きしめながら、泰明は月を仰ぎ見た。
神子が笑ってくれて、私の腕に飛び込んできてくれた。
あの小型子ウサギと小粒男が、この幸せをもたらしたのか。
思いもかけぬ月からの贈り物に、泰明は心の内で感謝した。
[小説・泰明へ]
[小説トップへ]
[ご案内へ]
おめでとう
やすあきは 3さいに なった
ねんれいが 1あがった
じょうだんを おぼえた
って感じで、泰明さんのまじめな答えは、
あかねちゃんに冗談だと思われちゃいましたね。
でも泰明さん的には結果オーライ!
二人きりの素敵なお誕生日を!!
2016.10.4 筆