神子殿と呼ばないで


この頼久・・・あなたを一生、お守りいたします。
あなたのおそばで、ずっと・・・。


とお誓いして、神子殿と私は共に暮らし始めた。


心穏やかに、満たされた日々。


けれど、そんなある日・・・・・私に試練が訪れた。

「あの、頼久さん、お願いがあるんですけど・・・」
あらたまった口調で神子殿が言う。

「何なりと。この頼久、神子殿の願いなれば、必ず!」
神子殿は私の言葉に、少し困った顔をしている。
「神子殿?何か失礼なことをしてしまったのでしょうか?」
「いいえ、違うんです。そうじゃなくて、ええと・・・」

少し口ごもっていた神子殿だが、意を決したように澄んだ瞳を上げた。
「私、もう神子じゃないんです。だから」
「は?」
「神子殿、じゃなくて、せめて名前で呼んで下さい」


「神子殿が望まれるならば、そのように」
ぷっと、愛らしいふくれ顔。
あ!しまった!言われたそばから、つい神子殿と・・・。

「申し訳ありません!!では・・・・・、あかね殿・・・・・これで、よろしいでしょうか」
ふくれ顔は、変わらぬまま。
「殿・・・は、要らないです」
「え?では、何とお呼びすれば・・・・」
ぷっと、今度は笑い声。

「あかね、でいいです」
「呼び捨てですか・・・・?そのようなことは・・・・」
「だめですか・・・・?」

困ったような眼で見つめられると、心の臓が痛いほどに、どきんと打つ。
何としても、お望みをかなえなければ、と思う。
深く息を吸って、試みる。

「・・・・・あかね・・・・・・・・・・・殿」
で、できない!!!
神子殿の名を、呼び捨てになど・・・・。

けれど、名前のひとつも神子殿の願う通りに呼べないとは・・・・
何ともふがいない男よと、あきれていらっしゃるのではないか。



その時、神子殿が私の袖を引いた。
私を見上げ、眼をきらきらさせ、一生懸命背伸びしている。
「いいことを思いつきました!耳を貸して下さい」
身を屈めると、神子殿の柔らかい息が耳朶にかかる。
「少し恥ずかしいから、他の人には内緒ですよ・・・・・・・」

そして神子殿は小声で、ある言葉を囁いた。

「神子殿がお恥ずかしいのなら、どうかご無理なさらずに」
すると神子殿はぶんぶんと目の前で手を振った。
「ええと、恥ずかしいっていうのは、そういう意味じゃなくて・・・・」
そう言って、神子殿は頬を染めた。
「なんだか、甘くて素敵だなあって、あこがれてたんです。そう呼んでもらうの・・・」


「神子殿がそこまで強く望まれているとは・・・・。では、これからは必ずそのように」
「じゃあ、頼久さん、言ってみて下さい」
神子殿は眼を閉じた。
「では・・・・・・・・・・・」

神子殿はしかめ面になった。

「頼久さん、それじゃ固すぎです。もっと、優しくて甘〜い感じでお願いします」
「優しくて・・・甘〜い・・・・感じ・・・・ですか」

難しい。
しかし、神子殿の願い、何としてもかなえなければ!!

「お気に召すようにお呼びできるよう、鍛錬いたしますゆえ、どうか、しばしのご猶予を」
神子殿はにっこりしてくれた。
「はい。じゃあ、楽しみにしていますね」



この日から、私のかつてない試練の日々が始まった。
神子殿が、他の者には内緒と仰せられたので、
人目につかない場所で一人、練習に励む。


深泥が池で剣を振りながら、幾度もその呼び方を繰り返す。

しかし・・・・
難しい・・・・優しく甘〜い感じとは・・・・?
神子殿を想う時の、あの気持ちなのだろうと、そこまではわかる。
しかし、どうすれば・・・・


苛立って、生い茂った草を横に薙ぎ払う。
ん?
何かが、私に降りてきた。

次は、少し足を広げ、腰を落として、斜め後ろから身体を回して剣を払う。
剣術にはない動き。
しかし、こうすると、自然に心が解き放たれ・・・・そして


私はついに、開眼した。



家路を急ぐ。


「お帰りなさい、頼久さん。・・・・あっ?!・・・」


迎えに出てくれた神子殿を、ふわりと抱き上げる。

そして・・・・神子殿の眼を見つめて・・・・

優しく
甘〜く


「ただいま、ハニ〜」








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余計なあとがき

しょうもない話で、冷や汗;;;;
ははははは・・・・(笑ってごまかそうと試みる)


そして、一応読んでみたけど、オチがさっぱり分からん、という神子様へ。

ゲーム「学園ヘヴン」の登場キャラ、成瀬由紀彦ネタです。
成瀬は、すっごく強いテニスプレーヤーで、部の主将も務めています。
主人公には最初からなつきまくり、呼ぶ時には「ハニー」。
で、もちろん声が、頼久と一緒・・・・。

ちなみに、あかねちゃんの声も、攻略キャラとして出演しています。