龍の夢


プロローグ


5 襲来




「龍神の神子…か。面白い」

闇の中に冷たい含み笑いが響いた。

「神泉苑に結界を張り、何をするかと思えば神頼みか」

笑いの気配は殺気に変わる。

「灯った希望が目の前で潰えるのを…見せてやろう」





帝の一行が神泉苑を歩み出た瞬間、先頭を行く武人が血飛沫を上げて倒れた。
松明も持たず、暗闇を跳梁するいくつもの影が、
白刃を手に襲いかかってきた。

「鬼の襲撃ぞ!!」
「主上を守れ!!」

帝の周囲は剣戟の音で満ちた。

「剣で守れると思うか!」
幾つもの鬼の術が、同時に帝を撃った。

その前に白苑が立ち塞がる。

「ぐわっ!!」
「うぐっ」
次の瞬間、弾き飛ばされて地面に倒れ伏したのは、術を撃った鬼の方だった。

「くっ!」
「我らの術が、効かぬと?」

白苑は、じり…と足を踏み出す。
「立ち去れ」
低く抑えた声。数珠を持つ手を、ゆっくりと上げていく。

白苑が気を放つ直前、鬼達は怨嗟の言葉と共に姿を消した。

「みごとじゃ、白苑」
しかし、帝のねぎらいの言葉にも振り向かず、
白苑は落ち着かなげに周囲を見渡す。

「鬼が、これほど容易く退くでしょうか…」

その言葉の通り、鬼達は退いたわけではなかった。
先頭を撹乱し、帝を襲うとみせて、行列の後方に現れたのだ。

「何と……!鬼の狙いは…」
帝は悲痛な声を上げた。

鬼の剣の襲い行く先には、黒龍の神子。
周囲の護衛が、瞬く間に切り伏せられた。

「間に合うか…!」
白苑が走る。

随身、貴族、武官を間に挟み、神子までの距離はあまりに遠い。

「愚かな人間よ、龍を呼ぶなど、過ぎたことと知れ!!」

ただ一人立ち尽くす神子に、鬼達が切りかかった。

「みすずっ!!」

キンッ!!
鋭い音が響き渡る。

その音に、白苑は微かな安堵の混じった声で呟いた。
淡海(おうみ)か …」

鬼よりも疾く神子の前に現れた若武者が、鬼の剣を一人で受けている。
多勢に無勢と見えるが、たった一つの剣が、幾つもの攻撃をことごとくはね返し、
受身から攻勢へと転じていく。

その間に、白苑が駆けつけた。

「長引けば、こちらが不利…」
鬼の頭目が、鋭い口笛を鳴らす。

次の瞬間、鬼は姿を消し、若武者の剣だけが空を切った。

「感謝するよ、淡海」
白苑の言葉に、淡海と呼ばれた若武者はゆっくり首を振った。
手傷を負い、髪は乱れているが、息の上がった様子はない。

淡海はくるりと白苑に背を向けた。
心配そうにみすずを見つめ、小さく首を傾げる。

「怪我はないわ、ありがとう」

その言葉に淡海は微かな笑みを浮かべ、静かに頭を下げた。




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2007.12.15





プロローグ

[1.まどろむ龍]  [2.神泉苑]  [3.遠い鈴音]
[4.夏]  [5.襲来]  [6.夏・ふたたび]


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