「龍神の神子…か。面白い」
闇の中に冷たい含み笑いが響いた。
「神泉苑に結界を張り、何をするかと思えば神頼みか」
笑いの気配は殺気に変わる。
「灯った希望が目の前で潰えるのを…見せてやろう」
帝の一行が神泉苑を歩み出た瞬間、先頭を行く武人が血飛沫を上げて倒れた。
松明も持たず、暗闇を跳梁するいくつもの影が、
白刃を手に襲いかかってきた。
「鬼の襲撃ぞ!!」
「主上を守れ!!」
帝の周囲は剣戟の音で満ちた。
「剣で守れると思うか!」
幾つもの鬼の術が、同時に帝を撃った。
その前に白苑が立ち塞がる。
「ぐわっ!!」
「うぐっ」
次の瞬間、弾き飛ばされて地面に倒れ伏したのは、術を撃った鬼の方だった。
「くっ!」
「我らの術が、効かぬと?」
白苑は、じり…と足を踏み出す。
「立ち去れ」
低く抑えた声。数珠を持つ手を、ゆっくりと上げていく。
白苑が気を放つ直前、鬼達は怨嗟の言葉と共に姿を消した。
「みごとじゃ、白苑」
しかし、帝のねぎらいの言葉にも振り向かず、
白苑は落ち着かなげに周囲を見渡す。
「鬼が、これほど容易く退くでしょうか…」
その言葉の通り、鬼達は退いたわけではなかった。
先頭を撹乱し、帝を襲うとみせて、行列の後方に現れたのだ。
「何と……!鬼の狙いは…」
帝は悲痛な声を上げた。
鬼の剣の襲い行く先には、黒龍の神子。
周囲の護衛が、瞬く間に切り伏せられた。
「間に合うか…!」
白苑が走る。
随身、貴族、武官を間に挟み、神子までの距離はあまりに遠い。
「愚かな人間よ、龍を呼ぶなど、過ぎたことと知れ!!」
ただ一人立ち尽くす神子に、鬼達が切りかかった。
「みすずっ!!」
キンッ!!
鋭い音が響き渡る。
その音に、白苑は微かな安堵の混じった声で呟いた。
「
鬼よりも疾く神子の前に現れた若武者が、鬼の剣を一人で受けている。
多勢に無勢と見えるが、たった一つの剣が、幾つもの攻撃をことごとくはね返し、
受身から攻勢へと転じていく。
その間に、白苑が駆けつけた。
「長引けば、こちらが不利…」
鬼の頭目が、鋭い口笛を鳴らす。
次の瞬間、鬼は姿を消し、若武者の剣だけが空を切った。
「感謝するよ、淡海」
白苑の言葉に、淡海と呼ばれた若武者はゆっくり首を振った。
手傷を負い、髪は乱れているが、息の上がった様子はない。
淡海はくるりと白苑に背を向けた。
心配そうにみすずを見つめ、小さく首を傾げる。
「怪我はないわ、ありがとう」
その言葉に淡海は微かな笑みを浮かべ、静かに頭を下げた。
プロローグ
[1.まどろむ龍]
[2.神泉苑]
[3.遠い鈴音]
[4.夏]
[5.襲来]
[6.夏・ふたたび]
[龍の夢・目次]
[キャラクター紹介]
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