まばゆい白い光を見送ると、男は家に引き返した。
奥から美しい女がゆっくりと歩み出てくる。
「起きてもよいのか?無理をするな」
「桜が・・・見たいと・・・」
「そうか・・・」
女を胸に抱き留め、その歩みを支える。
「誰か・・・いらしていたのでしょうか。お館様の剣の音が聞こえました」
「その音で起こしてしまったのだな。すまなかった。恐ろしくはなかったか」
「いいえ・・・」
女はたくましい胸に、頭をもたせかけた。
「お館様の剣と響き合う、美しい音でした」
男は胸元に波打つ金色の髪に、優しく手をすべらせる。
「お前は、剣を知らぬというに、なぜそのようにわかってしまうのだろうな」
女は微笑んだ。
なんの不思議もありませぬ。
愛しいお方の剣の流れ・・・。
わからぬはずが、ありましょうか・・・。
「長老様に呼ばれていらした御用事は、もうおすみなのですか?」
女の言葉に、かすかに男の顔が強張った。
それに気づき、女は心配げに言葉を続ける。
「あの・・・何か大事があったのでしょうか。すみません。
出過ぎたことを伺ってしまいました」
「いや、そうではない」
男はそう言うと、女の顔を仰向かせ、透き通った優しげな青い瞳をのぞきこむ。
「長老殿は、我らのやや子に、名を下さったのだ」
女の頬が染まる。
「まだ・・・ずっと・・・先のことでございますのに・・・」
「恥ずかしがらずともよい。きっと、お前に似て優しき心の子となろう」
女は手を差し伸べ、男の頬に触れた。
「お館様のお子なれば、きっと強き心の子となりましょう」
風に乗って、花びらが流れてきた。
女はそっと己が腹に手を当てる。
「頂いた名は、何と?」
「リズヴァーン」
「美しい名・・・」
「そうだな・・・」
「幸多き道を行けますように・・・」
「共に・・・祈ろう」
間章 散桜
第4章 炎呪