果て遠き道

間章 散桜

4 名に籠めた思い



まばゆい白い光を見送ると、男は家に引き返した。

奥から美しい女がゆっくりと歩み出てくる。

「起きてもよいのか?無理をするな」
「桜が・・・見たいと・・・」
「そうか・・・」
女を胸に抱き留め、その歩みを支える。

「誰か・・・いらしていたのでしょうか。お館様の剣の音が聞こえました」
「その音で起こしてしまったのだな。すまなかった。恐ろしくはなかったか」
「いいえ・・・」
女はたくましい胸に、頭をもたせかけた。
「お館様の剣と響き合う、美しい音でした」

男は胸元に波打つ金色の髪に、優しく手をすべらせる。
「お前は、剣を知らぬというに、なぜそのようにわかってしまうのだろうな」
女は微笑んだ。
なんの不思議もありませぬ。
愛しいお方の剣の流れ・・・。
わからぬはずが、ありましょうか・・・。

「長老様に呼ばれていらした御用事は、もうおすみなのですか?」
女の言葉に、かすかに男の顔が強張った。
それに気づき、女は心配げに言葉を続ける。
「あの・・・何か大事があったのでしょうか。すみません。
出過ぎたことを伺ってしまいました」

「いや、そうではない」
男はそう言うと、女の顔を仰向かせ、透き通った優しげな青い瞳をのぞきこむ。
「長老殿は、我らのやや子に、名を下さったのだ」
女の頬が染まる。
「まだ・・・ずっと・・・先のことでございますのに・・・」
「恥ずかしがらずともよい。きっと、お前に似て優しき心の子となろう」
女は手を差し伸べ、男の頬に触れた。
「お館様のお子なれば、きっと強き心の子となりましょう」

風に乗って、花びらが流れてきた。
女はそっと己が腹に手を当てる。

「頂いた名は、何と?」
「リズヴァーン」
「美しい名・・・」
「そうだな・・・」
「幸多き道を行けますように・・・」
「共に・・・祈ろう」





間章 散桜 

(1)夢 (2)月明かりの下で (3)花断ち あとがき

第4章 炎呪

(1)兄と弟

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