果て遠き道

第6章 懐光

8 雪夜 〜 短いエピローグ



雪の降り積む隠れ里に、言葉のない時が流れる


迷いながら、それぞれに辿りついた答

それは正しかったのか・・・
そも、正しいことなど存在しないのか
神ならぬ身が知り得ないだけなのか


儚い存在であればこそ、
迷いの果てに選んだ道こそが尊いのだろう

その答の先に、二人今、ここにこうして在る
それこそが、ただ一つ、手の中につかんだもの
全てを捨て去ってなお、残るもの
生きる証



もっと・・・確かめたい
お前がここにいること、
また再び、お前と共にいることを・・・

胸元に熱い吐息を感じながら、
望美は、リズの髪に手を滑らせた
金の絹糸に指を絡ませ、抱きしめる


お前の鼓動が聞こえる
あの時のように・・・
こうしていると、あの夜を思い出す
私の中で、遙かな時空がよみがえり・・・
幼い日の記憶が・・・重なり合っていく

お前の眼は    あなたの眼は
澄み切って、優しい    澄み切って優しかった
私を抱くお前の胸は    僕を抱いたあなたの胸は
柔らかく、あたたかい    柔らかく、あたたかだった
通ってきた全ての道、出会った全ての
お前を     あなたを
愛している・・・愛している・・・愛している


こうして私は、鬼の子を抱いていた
私にとっては、ついこの間のこと
でも、先生にとっては、長い長い時の彼方
その果て遠い道を、私に向かって、歩いてきてくれた


溢れる想いが、言の葉を紡いだ。

「私は・・・
長い時を歩いてきてくれたあなたを
出逢ってからのあなたを、
その前のあなたを
全部、愛しています

・・・リズヴァーンという、あなたを」

お前が・・・私の名を呼ぶ
その声が、
私をあたたかく満たしていく

「もう一度・・・もう一度呼んでほしい
私の名を・・・お前の声で」



巡り巡る数多の時空が、一つになり、
長い旅が終わる
それは、新しい旅のはじまり

けれど今はただ二人、
神子でもなく、師でもなく
名を呼び合って
同じ鼓動を感じ合う






第6章 懐光 

(1)苦い再会 (2)開かれた扉 (3)最後の戦い (4)死闘 (5)神子 (6)朔の涙 (7)いとしき命に (8)雪夜 〜 短いエピローグ(背景効果なし) あとがき

終章 春陽  (1)昔日の春

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