青い空に花びらが舞っている。
――桜花…か。
泰明は身を起こし、立ち上がった。
周囲は小暗い林。
幾本もの桜の木々が、薄く淡い明かりを灯している。
泰明は近くの桜木を見上げ、
舞い降りて来た花びらを掌で受けた。
見知らぬ桜だ。
だが、桜であることは分かる。
神泉苑の儀式は夏…であった。
季が、違う。
ここに満ちる気もまた、京のものとは違う。
そして、自分の纏っている装束も、奇妙な形をしている。
だが、その全ては些細なことだ。
泰明は顔を上げ、木々の向こうを見た。
一心に駆け来る小さな足音。
自分の名を呼ぶ、愛らしい声。
胸を貫く、歓びという名の痛み。
「あかね…」
泰明は走った。
滲む視界の中で、愛する人が両手を伸ばし、
泣きながら駆けてくる。
泣いてはいけない…神子。
こうして、また会えたのだから。
力の限り抱きしめあい、互いの存在を確かめる。
小さな拳で、あかねは泰明の胸を叩いた。
「泰明さん…もう絶対に、離れたりしないで…」
涙の流れる頬に手をやり、
顔を上げたあかねに泰明は小さく微笑んで頷いた。
「問題ない、神子」
浮雲の流れる空からは柔らかな光が降り注ぎ、
そよ吹く風が花の香りを運んでくる。
抱き合う二人の髪に、肩に
花びらは雪のように舞い降りる。
長い旅のはじまりを見た桜の木々は音もなく花弁を降らせ、
旅の終わりを見守っていた。
―― 花の還る場所 ――
第四部
1.呪詛
2.刻・迫る
3.破戒
4.土御門
5.思いを抱いて・前編
6.思いを抱いて・後編
7.神泉苑
8.裏鬼門
9.禍事
10.蝕み
11.暗き水
12.冥き国
13.欠けた力
14.亀裂
15.神子
16.悲しみの日
17.狭間
エピローグ
1.京・前編
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短い終幕劇にて、本編終了です。
引き続き、エピローグまでおつきあい頂ければ幸いです。
2010.07.24 筆