花の還る場所  第四部

18.花の還る場所



青い空に花びらが舞っている。

――桜花…か。

泰明は身を起こし、立ち上がった。

周囲は小暗い林。
幾本もの桜の木々が、薄く淡い明かりを灯している。

泰明は近くの桜木を見上げ、
舞い降りて来た花びらを掌で受けた。

見知らぬ桜だ。
だが、桜であることは分かる。

神泉苑の儀式は夏…であった。
季が、違う。
ここに満ちる気もまた、京のものとは違う。
そして、自分の纏っている装束も、奇妙な形をしている。

だが、その全ては些細なことだ。

泰明は顔を上げ、木々の向こうを見た。

一心に駆け来る小さな足音。
自分の名を呼ぶ、愛らしい声。
胸を貫く、歓びという名の痛み。

「あかね…」

泰明は走った。
滲む視界の中で、愛する人が両手を伸ばし、
泣きながら駆けてくる。

泣いてはいけない…神子。
こうして、また会えたのだから。

力の限り抱きしめあい、互いの存在を確かめる。

小さな拳で、あかねは泰明の胸を叩いた。
「泰明さん…もう絶対に、離れたりしないで…」

涙の流れる頬に手をやり、
顔を上げたあかねに泰明は小さく微笑んで頷いた。

「問題ない、神子」

浮雲の流れる空からは柔らかな光が降り注ぎ、
そよ吹く風が花の香りを運んでくる。
抱き合う二人の髪に、肩に
花びらは雪のように舞い降りる。

長い旅のはじまりを見た桜の木々は音もなく花弁を降らせ、
旅の終わりを見守っていた。



第四部 了





―― 花の還る場所 ――
第四部
1.呪詛  2.刻・迫る  3.破戒  4.土御門  5.思いを抱いて・前編
6.思いを抱いて・後編  7.神泉苑  8.裏鬼門  9.禍事  10.蝕み
11.暗き水  12.冥き国  13.欠けた力  14.亀裂  15.神子
16.悲しみの日  17.狭間
エピローグ
1.京・前編

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短い終幕劇にて、本編終了です。
引き続き、エピローグまでおつきあい頂ければ幸いです。



2010.07.24 筆